第7話(3) やらかす王太子

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 やはり顔を赤らめて、辿々しく言うレオン。心配そうに私を見つめる彼の視線を受けて、私の心がザワザワと騒がしい。  違う、泣いてなどいない。今のこんな私をその眼で見ないで。それよりもお礼を、お礼を言わなくては。そう思うのに、私の唇は違う言葉を紡ぐ。 「…何故いつも、私を見ているのですか」  目と鼻の先にある彼の顔。レオンは私から目を逸らす事なく言った。 「……見て、いません」 「私を、その美しい眼で見ているではありませんか」 「………何故、俺が見ている事に気付いてくれるのですか」  切なそうにそう言ったレオンを見て、今度は私まで顔を赤くした。  そうだ、私も…いつもレオンを見ていたのだ。その事に気がつくと、先程までの殿下への怒りなど吹き飛んだようで、頭の中はレオンの事でいっぱいになった。 「…貴方がいつもそんな瞳で見つめてくるから、お陰で頭から離れないのです!」  レオンのせいだと伝えたつもりだが、言った言葉を頭で反芻すると中々に恥ずかしい事を言った気がする。レオンは恥ずかしそうにはにかんで、私をそっと優しく下ろす。 「…俺、1ヶ月後にある剣技大会を辞退しようとしていたんです…でも」  剣を握り慣れているであろうそのゴツゴツとした逞しい大きな指で私の涙を拭おうとしてくれたのか、そっと手を伸ばしてきたが私に触れる事なく動きが止まる。  改めて胸ポケットから白いハンカチーフを取り出したレオンはそれを私に差し出した。私は素直にハンカチーフを受け取り涙を拭うと、レオンは優しく微笑む。  そして、いつも見るオドオドとした表情ではなく、凛々しくも優しい瞳の表情。「やっぱり、参加しようと思います」と言ったその目にはハッキリとした意志を感じられる。  なんとなく、この間読み終えたロマンス小説の主人公を思い出した。  おかしいな。レオンは小説の主人公のように愛の言葉なんて囁いてこないし、ましてや私に近付きもしないし。ただ、私を見つめるだけ。愛おしそうに見つめるだけ。  そんなレオンから目が離せないの。  私はドクドクと早鐘打つ心臓を、制服の上からギュッと抑えた。
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