第8話(1) 愚かな男

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 けれど現実は、僕をガッカリさせるものだった。  父親に連れられて参加した、当時まだ王太子ではなかったイーサンお披露目の大規模なお茶会。そこにいた子ども達はお茶会の長テーブルに綺麗に盛り付けられたケーキよりも甘い、砂糖のような考えをしたような奴らばかりだったのだ。  見た目は綺麗に取り繕っていても、中身はスポンジケーキのようにスカスカ。話していても楽しくない。僕が話せば皆は微妙な顔をする。誕生日に宝石や船などを買って貰ったなどと自慢する子息令嬢の話なんて心底どうでもいい。  そりゃあ、僕も甘くてふわふわなケーキは好きだよ? けど、ケーキと違ってアイツらは噛んで飲み込んでしまうことなんて出来ないじゃないか。要らないと思っても、捨てられないケーキなんて面倒だなぁ、と思う。国のために実りある話をしようよ。ねぇ、何故僕が異端者のような扱いを受けるんだ。君たちの理解力が足りないせいだろう?  僕の周りには馬鹿しかいないのかと落胆していた。そんな中、僕の目を引く少女がひとり。当時7歳のシャロン嬢だった。  他とは比べようのない気品さ、美貌、佇まい、そして受け答えからでも分かる賢さ。母が昔読み聞かせてくれた絵本の中のお姫様が飛び出してきたんじゃないかと驚いたものだ。僕はこの子と絶対に友達になりたいと思った。 「はじめまして。僕はハリス・ヴァネッサンと言います」  突然声をかけられたからか、少女は夜空に似た瞳をぱちぱちと瞬かせてから、完璧な淑女の礼を披露してくれた。 「はじめまして。私はシャロン・ナイトベルと申します。以後、お見知りおきを」  美しいカーテシーの所作に思わず見惚れた。彼女が纏う凪いだ穏やかな魔力も心地良かった。 「シャロン嬢、僕は君と話したい。君と仲良くなりたいんだ」  思えば、これが僕の初恋だった。シャロン嬢がニコリと少女ながらに色気のある綺麗な微笑みを浮かべたところを見て、僕の心は天にも昇る気持ちだった。
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