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シャロン嬢との会話はとても楽しかった。僕が話す内容を真剣に聞いてくれて、たまに僕の知らない話を聞かせてくれる彼女に夢中だった。
それこそ、シャロン嬢がナイトベル公爵に呼ばれるまで僕は彼女を独占していた。僕の元を離れていく彼女を早く戻ってきて欲しいなと思いながら見送っていると、いつの間にやってきたのか隣に父上が立っていた。
「…彼女は未来の王太子姫になる可能性が最も高い候補者のご令嬢だ。仲良くしておくといいよ」
心地の良い熱を持った頭が冷えていった。僕はだいぶ浮かれていたらしい。
僕は僕にとって残酷な事を告げる父を見上げて、静かに「はい…」とだけ答えた事を覚えている。
やはりと言うか、数年後にイーサン王太子とシャロン嬢の婚約が発表されて、僕の短い初恋物語は幕を下ろしたのだった。
それから、僕の目標のためにも、国母となられる憧れの彼女のためにも、そして国のためにも誠心誠意二人を支えていこう。そう前向きに考えて、初恋の苦い気持ちをいい思い出に出来るのにさらに数年かかってしまったけれど、今ではそんな自分を誇りに思っている。生涯仕える主の大切なお方がシャロン嬢だなんて、なんて仕え甲斐があるのだろう! なんて、そんな事を考えてすらいたんだ。
「くそ! くそ! くそ!」
僕はスクールタウンのアパートメントではなく、馬車を20分ほど走らせて王都にあるヴァネッサン伯爵家の館にいた。
「坊っちゃん…! 突然戻られたかと思えばそのように荒ぶられて…如何なさいましたか?」
帰宅するなり自室で怒り任せに魔力を暴走させる僕をみて、乳母のマーサが心配そうな眼差しを向けた。お気に入りの花瓶が割れてしまう。僕はこのように荒々しい行動をとる子供ではなかったから、驚きもあるのだろう。
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