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「殿下が、好き…」
ポツリと唇からこぼれた言葉は、殿下と未来を共にするのだと決まった時から胸に宿っていた言葉。なぜこんなにも涙が流れるのかしら。悲しみから、絶望から、それとも…。
「好き、だったわ」
きっと、この涙は私の殿下への恋心なのだ。止まることなく頬を伝い流れ落ちていく私の恋心。
ひとしきり涙を流した後は、もう頬を伝うものもなくなった。
…さようなら、私のイーサン様。
「…うん、なんだか殿下に対してはもう恋心は抱けないみたい」
「…お嬢様…!」
ソフィは涙に濡れた瞳を大きく開いて、そして嬉しそうに微笑んだ。
「はっきり言って、あの王太子はお嬢様には相応しくありません。クソです!」
く、くそ?
「よくある転生物語のように話を改変してやろうと奮闘しましたが、だめでした。あの王太子は新しいもの好きなのでしょう。お嬢様の魅力を何ひとつ分かっていない! お嬢様は、ゲームのお嬢様とは違いこんなにも頑張り屋で素直で、優しい素敵な方に育ってくださったと言うのに」
「…もう、ソフィったら…」
「照れるお嬢様も最高に萌えます! 私は、お嬢様の幸せを願っています。どうか、お嬢様の幸せのために新しい恋を探しましょう!」
そう言って私の手を握りしめたソフィの両手はとても暖かかった。
「うん、そうする。素敵な恋ができる気がする」
素直にそう思えたのだ。
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