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第8話(2) 幕を下ろした夢
「突然帰ってきて、どうしたんだい?」
帰宅するなり僕に捕まえられた父上は、首元のタイを緩めながら僕を見て言った。執務室で大事な話があると言ったけれど、何故か母上もいらっしゃるし。
「余計な事を言うつもりはないから、単刀直入に言うけど…イーサン王太子は王の器じゃない」
僕がそう言うと、父上は僕と同じ焦茶色の瞳を少し大きく開き、母上は「まぁ…」と驚きに手で口を抑えた。すぐに鋭く細められた父上の視線にたじろぎながらも、僕はグッと姿勢を正した。
「…滅多な事を言うもんじゃないよ、ハリス」
柔らかな口調で父上は仰るけれど、厳しい視線で僕を貫く。僕は「イーサン王太子は、僕が仕えたいと思う人物じゃない」と負けずに答えて、暫し父上と見つめあった。
「…ハリス。君は好き嫌いがハッキリしているからね。そこが君の美徳であり、同時に欠点でもあるのだけれど…どうしてそう思うんだい? 結論だけではなく、君の考えと気持ちを私に聞かせてくれるかな?」
先に折れたのは父上で、諦めたように小さく息を吐くと僕の気持ちを話せと促してきた。僕は頷いて、先程特別区のテラスで起きた身の毛もよだつ出来事を事細かに話した。穏やかな表情で聞いていた父上も、しだいに顔が青くなっていく。
「…イーサン殿下は、ば……いや、なんて事をしてくれたんだ…!」
あ、今『馬鹿』だと言いそうになったな。そんな事を思いながら、僕は父上に「イーサン殿下とシャロン嬢の関係は、もはや修復不可能だよ」と伝える。
「殿下の密会の件でナイトベル公爵は大変お怒りなんだ。それを今回……! っ…ハリス、君の努力が報われる事はなかったね」
父上は小さく「非常に残念だ」と虚空を見つめて呟く。その目に映る人物は、おそらくイーサンだろう。
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