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「……ハリス」
「はい、父上」
ヴァネッサン伯爵家は代々王家に仕える名家だ。家系的に高い魔力と技術力、そして忠誠を国の為に捧げる。だからこそ、気高く誇り高い。王が臣下を選ぶと言うけれど、臣下もまた王を選ぶ。そうして国は時代を刻むんだ。
ふと、イーサンとの思い出が湧き出てきた。
初めてイーサンと顔を合わせた時イーサンは11歳で、汚れなど知らないその綺麗に澄み渡る青い目で僕を見上げてこう言った。「私とともにこの国を大きくしよう!」
頼もしい。僕は感激してまだ幼いこの小さな王子様を支えていこうと思った。
それからエリックやラザークとの出会いを果たし、度々喧嘩はしたけれど、僕はより一層未来に思いを馳せた。無敵感、というやつだったのかな。僕たちなら何でも出来ると思っていた。
僕たちはまだまだ未熟者で、これから沢山の困難が待ち受けているかもしれないけれど、一緒に成長していければ大丈夫。うん、大丈夫。明るい未来しかない。
…そう、ついこの間まで本気で思っていたんだよな、僕は。ツンと、目頭が熱くなる。
「イーサン殿下とは、今後は一定の距離を取りなさい。側仕えから外して頂けるよう陛下に進言します」
父、ヴァネッサン伯爵がイーサンを切り捨てた瞬間だった。
僕の頬を伝う一粒の涙を拭って父上を見る。顔色ひとつ変えずに僕を見つめる父上の瞳は何故か揺れていた。
「承知しました、ヴァネッサン伯爵閣下」
僕はゆっくりと頭を下げた。
こうして今度は、僕の未来の夢物語の幕を静かに下ろしていく…。
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