第9話 愛を囁く

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「………ここの紅茶がどうしても飲みたくて」 「そんな! ソフィがいつでもお嬢様のために、ここよりも美味しい紅茶を淹れて差し上げますのに!」  私の苦し紛れに発した不用意な言葉で、ソフィは傷付いたように悲しげな顔をした。私の心がズキリと痛み、慌ててソフィの手を握る。 「違うの、ソフィ! 本当は、本当は…恥ずかしくて言えなかったのだけれど…」  もう、白状してしまおう。ソフィを傷付けるくらいなら、私はこの恥ずかしさなんて耐えてみせる。そう決心して話そうとした時。 「おやおや、ソフィ。聞き捨てならないねぇ。私よりもこの『シャーローム茶葉』を美味しく淹れられるだって?」  と、ハスキーな女性の声がした。見れば、この店の従業員であるアカシャだ。二児の母でナイトベル公爵家専属庭師の妻である。 「アカシャ、いつもご馳走さま」 「お嬢様、ソフィの事はお気になさらず、ごゆっくりしていって下さいね。私たちはお嬢様のお顔が見れてとても嬉しいですよ」  アカシャは目尻に笑い皺を刻んでニコリと笑う。私は「えぇ」と笑顔を返した。  この『ナイトジャスミン』というお店はナイトベル公爵家が運営するお店のひとつだ。ここの従業員の殆どが元々公爵家でメイドや執事として従事していた者たちである。  アカシャもその一人で、ソフィがメイドになりたての時に教育係として付いていたそうだ。ソフィはとてもお世話になったアカシャに頭が上がらないらしく、今も何か言いたげであるが、ぐぬぬと唸りながら耐えているみたい。 「やあ、シャロン。それにソフィも。今日もここに居たんだね」  そんな時にまた新たな登場人物が。お兄様だ。
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