第1話 メイドの告白と教え

9/10
前へ
/320ページ
次へ
 幼い頃、ソフィが現れてから私の人生に光が差した。  病気だった母は今ではすっかり元気で、いつも笑顔で我が家を癒す優しい花だ。父は仕事とは別に新しい事業をいくつか始め、今では見事軌道に乗っており順調。兄は領地改善を目指して発案した幾つかの政策により、領民の生活水準は他の領地よりも格段に上がり次期領主として望まれ期待されている。  これらは全て、ソフィの助けがあって為し得た事だった。 「だって私には、ソフィが味方についているもの」  塞ぎ込んだ時、落ち込んだ時、苦悩していた時。いつもソフィが側にいてくれた。  楽しかった時、嬉しかった時、幸せを感じた時。必ずソフィが側にいてくれた。 「はい、お嬢様。ソフィはいつまでもお嬢様の味方ですよ」  目を細めて大きく口を開けて笑う彼女の笑顔が眩しくて、私もつられて口を開いて笑った。  昔、ソフィに教えて貰ったの。  本当に嬉しくて楽しくて幸せだと感じた時は、口を開けて思いっきり笑ってもいいのだと。すると、さらに幸せを運んできてくれるって。『貴族令嬢たるもの微笑みも上品に高貴さを失わずにあれ』。そう教えられてきた私にとって、ソフィの説く内容はとても新鮮で、そして好きだった。 「でも素敵な恋といっても…まず何をすればいいのかしら?」 「そうですね。お嬢様にはまずはじめに必ずして頂かなくてはならない事がございます。と言うより、これをして頂かなくては何もはじめられません!」 「それは?」 「イーサン王太子との婚約破棄でございます」 「まあ…」 「そんな不安げなお顔をされなくても大丈夫です、お嬢様。婚約破棄、それはもう円滑に進める案がございます。ご安心を!」
/320ページ

最初のコメントを投稿しよう!

83人が本棚に入れています
本棚に追加