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「レオンはどうしてこの店に?」
着席して、お兄様の質問にレオンは「実はハンカチーフを買い足しに…」と答えたので、私はすぐさま鞄に大事に仕舞っていた例のハンカチーフを取り出した。
「れ、レオン! このハンカチーフ! 返して差し上げます! か、感謝致しますわ!」
緊張していたとはいえ…自分で言っておいて、なんて高慢な態度なんだと心の中で嘆く。
勢いよく差し出した白いハンカチーフをレオンとお兄様は目を丸くして見た。
ハンカチーフを持つ両手が緊張で小刻みに震える。私はきっと真っ赤な顔でレオンを見つめているのだろう。レオンも目の前のハンカチーフではなく、その先にいる私を見つめ返していた。
あの日、階段で借りたレオンの白いハンカチーフ。これは『ナイトジャスミン』の商品だった。だから私は、僅かな望みをかけて、ハンカチーフをレオンに返すために何日もこの店で彼を待っていた。
午前中にドキドキしながら待ち続けて、夕方に落胆しながら帰る日々。けれど不思議と嫌じゃない。
「…レオン。良かったら妹の手からハンカチーフを受け取ってあげて」
温かい瞳で私とレオンを見つめるお兄様がレオンに促す。レオンはハッとして、慌てて私の手からハンカチーフを受け取った。
少しだけレオンの指が私の指に触れる。その部分だけ熱を持ったように熱くなった気がした。
「あの、これ…!」
レオンはすぐに気付いたようだ。受け取ったハンカチーフを見るレオンの横でお兄様も彼の手元を覗き込む。
「素晴らしい刺繍だね」
私はなんと、大胆にもレオンに借りたハンカチーフに金色の刺繍でレオンの名を刺したのだ! さらに私の瞳の色と同じ刺繍糸でその文字を縁取っている! おそるおそるレオンの様子を伺うと、レオンはとても嬉しそうに目を細めその刺繍を眺めていた。
あ…、やっぱりこの刺繍糸を選んで良かった。レオンの瞳と同じ色だわ…。
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