第10話(1) 剣技大会当日の朝

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第10話(1) 剣技大会当日の朝

 とうとうやって来た剣技大会当日。私は朝からそわそわと落ち着かず、ソフィは呆れた様子で私を見守っていた。 「ソフィ…! 今日、私をとびっきり可愛くして欲しいの!」 「お嬢様はいつもとびっきりに可愛いです! ですがお嬢様、今日のような日にその髪飾りは如何なものかと…」 「え?」  笑顔で首を傾げる私の手からバレッタを取り上げたソフィはやれやれと言った様子でため息を吐く。  異国の地でしかとれない最高級の真珠がいくつも埋め込まれギラギラと輝くダイヤが散りばめられたこのバレッタの値段は言わないでおこう。明らかに夜会に挑む気持ちで髪飾りを選んでいた私は、一旦落ち着こうと反省した。 「…浮かれちゃって…だめね、私」 「今日のところはリボンで我慢しておきましょう」 「はい、ソフィ…」  素直に従う私を見て、ソフィはクスクスと笑う。 「ところで、お嬢様は何故そんなに浮かれているのですか? 剣技大会がそんなに楽しみだったのですか?」  ソフィはそう言いながら手際よく私の髪を編み込んでいく。最近はずっとハーフアップにして貰っている。とてもお気に入りの髪型だ。 「えぇと…剣技大会ももちろん楽しみなのだけれど……ソフィは、この間『ナイトジャスミン』で会った黒髪の殿方を覚えている?」 「えぇ。もちろんですとも! ソフィはよおく覚えておりますよ! やっとお話して下さいますか!」  鏡越しにソフィからジト目で見られる。私が苦笑いを返すと、「お嬢様からお話してくださるまで待っていたら今日までかかってしまいました」と、少し責められた。
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