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1 ドトール
「ドトールって、地獄だよね。」
どこか悲しげにその柳眉を顰めながら、
そして、どこか気怠げな声音で、女はそう嘯く。
その瞳の色、それは宛ら『あと10分で死ぬ魚』を思わせるようだ。
そう嘯いた女の前にあるのは、
綺麗に平らげたジャーマンドッグの皿、
半分ほどになったチーズケーキ、
そして、八分ほど残ったタピオカミルクティー。
俺の奢りだ。
窓から差し込む晩秋の陽の光、
それは力強さを欠く割にどこか刺々しい。
店内に流れる音楽は、
氷の溶けきったアイスコーヒーのように精彩を欠く。
ぬるま湯のような昼下がりのドトール
その一体何処に地獄を見出せると言うのだ、
この女は?
人に一方的に奢らせておいて、随分な口ぶりだ。
まぁ、何かに付け「地獄」と言い出すのは
いつものことなのだが。
そしてあれだ、
一体何事かと俺が聞いてくるのを待っているんだ、
この女は。
けれど、この女の突拍子も無い物言い自体は面白くない訳でもないので聞いてみたくもある。
基本的に理不尽極まり無く、そして色々と不愉快なこともあるが。
心の中で複雑な溜息を付き、俺は女に地獄の理由を問い掛ける。
女は物憂げに口を開く。
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