9人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
6 スターバックス
女が向かいつつあるであろう御茶ノ水駅の方へと、
俺は急ぎ足で通りを歩む。
つい先程、丸亀製麺の前にて別れた女が、
まだ駅には辿り着いていないでくれとの
祈るような思いを抱きつつ。
時刻は夜の八時前。
夜の帳はとうに空を覆ってはいるけれども、
道沿いの店舗の照明、
そして居並ぶ街灯とが煌々と路を照らし、
道行く人々の姿を浮立たせているようだった。
十月の微風はまだ仄かに熱を孕み、
残暑の片鱗をその中に留めてはいたけれども、
深まり行く秋、そしてその後ろに確と控える
冬の存在を感じさせるかのような
深々たる冷たさの予感もまた抱かせるものだった。
その冷たさの予感は私の胸中に増しつつ在る不安、
そして焦りとを際立たせるようにも感じられる。
その姿を露わにしつつある俺の中の焦りは、
丸亀製麺での女の不自然な態度を思い起こさせた。
最初のコメントを投稿しよう!