6 スターバックス

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丸亀製麺にて、玉ねぎの味わいを蕩々と、 そして嬉々として語っていた女。 料理における玉ねぎの存在感の素晴らしさに対する 蕩々たる語り。 それは唐突にして、彼女自身への卑下といった 内容へと豹変してしまった。 己の抱える劣等感について切々と語り、 そして悄然とした態度を示す女。 俺はそんな彼女をフォローしようと試みた。 しかし、言葉を重ねてフォローしようとしても、 女の態度は、その悄然とした度合いを 愈々増すばかりだった。 「ごめんなさい、色々と。」 その言葉を最後に、女は語るのを止めた。 それ以降は、うどん、そしてかき揚げを 無言で黙々とその口へと運び続けるばかりだった。 打って変わった女のその態度を目にした俺も、 それ以上は言葉を重ねることが憚られるような 心持ちとなってしまい、女と同様に、 黙々とうどんを自分の口へと運び続けた。 先にうどんを食べ終えたのは女だった。 俺がうどんを食べ終え、 そして一息付いたのを見計らったかのように、 女は目で合図を送ってきた。 お互い言葉を発することも無く、 俺と女は同時に席を立って食器をカウンターへと返し、そして、店から出た。 店を出てからも女は押し黙ったままだった。 普段と異なる様子の女。 その様子にどことない不安感を抱いた俺は、 女に声を掛ける。 「どうする?お腹一杯になっちゃったから、  そこのスタバでちょっと休んでいかない?」と。 けれども女は(かぶり)を振ってこう返した。 「いや、今日はもういいや。ありがとう。」 そして、俺に軽く頭を下げ、 御茶ノ水駅方面へと歩み去って行った。 その後ろ姿は何処かか寂しげだった。 話し掛けるのも憚られるような、 何処となく余所余所しくて、 そして何処かしら悄然としたその態度に、 何となく気圧された俺は、 如何なる言葉を掛けて良いのかも分からぬまま、 黙って女の後ろ姿を見送るだけだった。
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