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一頻りお寿司を頂いた後、締めにラーメンを食べようという話になった。
ここスシローでは、何種類かのラーメンを頂くことができるのだ。
それもそれなりにクオリティの高いラーメンを。
俺はローストビーフの載った油そばを、そして、紗花は魚介風味の塩ラーメンをタッチパネルにて注文する。
ラーメンが届くのを待っている間、お互いに無言だった。
一気呵成にお寿司を食べ、お腹も膨れたことで一休みといった雰囲気であった。
そして何よりも、このスシローを出た後のことを思い浮かべていたため、言葉を口にすることが憚られてしまっていた。
恐らくは紗花もそうだったのだろう。
言葉こそ交わさないけれども、でも、お互いにさり気無く、チラチラと相手の表情を確かめている、そんな感じだった。
無言のうちに、お互いの間に漂う空気の孕む熱がじんわりと高まっていくような雰囲気だった。
もし、ここで何か言葉を発したならば、それは自分の中で高まり行く熱を纏ったものになってしまっていただろう。
そんな言葉を発してしまったら、心の内に抑えている衝動の存在を気取られてしまいそうに思えた。
お互いにそのことは分かっているけれども、でも、せめてこの場では取り繕おうという気持ち、それは俺も紗花もきっと一緒だった。
熱の高まりを遮るかのように、ラーメンがそろそろ届くとのアナウンスが席に備え付けのスピーカーから流れる。
そして、頼んだラーメンがレーンへと流れてくる。
俺はローストビーフの載ったまぜそばを、紗花は魚介風味の塩ラーメンを黙々と啜る。
タレのコッテリした味わいを、程良い固さを保った中細麺がしっかりと受け止め、それにローストビーフのジューシーな食感と旨味が上乗せされるといった感の、中々に美味しいまぜそばだった。
半分ほど食べたところで丼ごと紗花のほうに押しやる。紗花も塩ラーメンを啜るのを中断し、俺のほうに丼を押しやる。
お互い、半分ずつ食べようという約束だったのだ。魚介風味の塩ラーメンもしっかりとした美味しさを湛えていた。
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