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俺と紗花は無言でリビングへと向かう。
鞄を床に置き、部屋の電気を灯す俺。
その俺の背中へと紗花が抱き付いてきた。
紗花は俺の肩甲骨の間に額を押し当て、グリグリと頭を動かす。
「ムー」とか「ウー」などといった、くぐもった声を上げながら。
俺は「こらこら」と笑いを湛えた声を上げながら、紗花の腕を振り解く。
俺と紗花は向かい合う。
どちらからともなく顔を寄せ合い、奪い合うかのように唇を重ね合う。
それぞれの唇からお互いの唇へとそれぞれの舌を差し入れ、そして、お互いの舌を絡め合う。
全身を巡る血流の速度が一気に加速し、そして、加速した血潮が孕む熱も一挙に沸騰したかのように思えた。
俺の舌を弄ぶかのような紗花の舌の動き、それはのたり狂う蛇を思わせたし、つい一週間前の夜、俺の滾りに貫かれ、のたうっていた彼女の姿態を色濃く思い出させた。
込み上げる情動に急き立てられるかのように、俺も負けじと紗花の舌を貪る。
唇の端から唾液が滴り落ちる。
けれども、沸騰したような血流の中にあって、一切の冷静さを失いつつある俺の脳髄にとって、それはもう、取るに足らないノイズにしか過ぎなかった。
シャワーくらい浴びたほうが良かったかな、との思いが泡のように脳裏に浮かんだものの、怒濤の如く心を飲み込み行く情動の前に、それは瞬時に弾け失せてしまった。
お互いの口から舌を引き抜くようにして唇を離す。
荒く息を吐きながら、お互いがお互いの、そしてそれぞれの体を覆い隠している服を引き剥がすようにして脱ぎ捨てる。
最後の一枚だけを残した姿となった紗花と再び唇を重ね合い、舌を絡め合う。
最前よりも強く、最前よりも熱を込めて。
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