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俺はふと目を覚ます。
喉の渇きを覚えた為かも知れない。
壁の時計は夜の三時過ぎを示していた。
起き上がろうかと思ったが、俺の胸にしなだれかかるようにして寝息を立てる紗花の重み、そして、その肌から直に伝わってくる彼女の温もりが、その思いを霧消させた。
俺たちは、二度、体を重ねた。
最初は互いを貪り合うかのように。
二度目はお互いを慈しみ、
お互いを愛で、
お互いの味わいを噛み締めるかのように。
紗花の寝息を耳にしながら、
俺はぼんやりと物思いに耽る。
互いに欲望が尽き果て、
気を失うかのように眠りに落ちるその間際のこと。
紗花は囁いた。
「わたしのこと きらいにならないでね。」
俺は好意を囁いた。
紗花は再び囁いた。
「わたしのこと きらいにならないでね。」
俺は再び好意を囁いた。
その時の紗花は、
何故か泣きそうな表情をしていた。
紗花の髪を撫でながら俺は思った。
何がそんなに不安なのだろうか、と。
何故か、紗花のことが遠く思えた。
こんなにも近くにいるのに。
こんなにも愛しているのに。
こんなにも激しく愛したのに。
俺は再び眠りに落ちる。
胸に閊える蟠りを夢の世界へと屠るかのように。
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