3 ショッピングモール

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全てが地獄、そう嘯く女。 生の全てが地獄ならば、果たして死後はどうなる? と問い掛けてみる。 女は気怠げに答える。 スマホの画面を眺めながら。 ぼんやりとした表情で。 「私の死後?  そうね、地獄かしら。  恐らく、きっと、多分。  ご承知の通り、私は碌でなしよ。  考え方も、性根も、そして生き方も。  善き者と言い難い事は自分でも承知しているわ。」 「ただ、痛いのは願い下げ。熱いのも勘弁。  寒いのもお断り。八寒地獄なんて悲惨よ。  臛臛婆(かかば)地獄ってご存知かしら?  もう、寒過ぎて『ははば』としか言えないのよ。  信じられない。  願わくばドトール程度の地獄であって欲しいわ。  現世ですら、うっすらとした地獄なのだから、  死後であっても、うっすらとした地獄であるべきよ。  貴方以外の他人には、  なるべく迷惑は掛けないようにしているから、  三途の川の奪衣婆にも、  そのあたりの事情はご斟酌願いたいわ。」 死んでもドトールか。 どれだけドトールが好きなんだと心中にて呟く。 じゃ、俺は死後どうなる?と問う。 俺もドトールな地獄? 女は急に真面目な表情となる。 視線をスマホから外し、しばし物思いに耽る。 そして、スマホを置き、俺を見つめながら答える。 その表情は悲しげでありながらも、どこか悪戯っぽさもまた漂わせている。 何ともこの女らしい、複雑で思わせぶりな表情だ。 「あなたは…  そう、天国に行くわ。  あなたは親切だし、  多くの人はあなたを嫌うことは無いわ。  今日だって、私はあなたに感謝しているのよ。」 それはどうも。 で、それはどのような天国? 女は両の手をテーブルの上で組み、その上に顎を乗せ、遠くを見るような目つきとなる。 「そうね・・・  あなたの天国、それは言うなれば、  土曜のショッピングモールみたいなものね。」
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