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龍臥江の氾濫から数ヶ月後、派遣されていた一団は帝都へと戻った。後は各省で、これから先の復興についての計画が練られることになる。
清心殿で、大麒は庭院を眺めていた。そのそばには龍翔がいる。
「お疲れ様でした。大麒。あなたのおかげで助かりました」
柔らかな声でねぎらいの言葉をかける龍翔に、大麒は、
「もったいないお言葉です、兄上」
とお辞儀をした。龍翔は、
「本当に助かったのですよ」
と続け、にこりと笑う。思わせぶりな表情を見て大麒が不思議な顔をすると、
「昨日、宝珠国から書状が届きました。今回のあなたの行動へのお礼です。そして、今度、会談を設けることになりました」
龍翔はそう述べた。
「会談……ということは」
「講和条約の話し合いです」
龍翔の言葉に、大麒の表情に喜色が浮かぶ。
「兄上、おめでとうございます」
拱手をして頭を下げると、
「まだおめでとうは早いです。でもありがとう。私は頑張りますよ」
龍翔は袖をまくって力こぶを作り、悪戯っぽく微笑んだ。
「――なので、右腕が欲しいのです」
袖を元に戻すと、龍翔は大麒の目をじっと見つめた。
「私のそばについて、共に政を行ってくれる人を」
「…………」
大麒は困惑した表情を浮かべた。
紫大麒という存在は既に朝廷に知れ渡っている。好意的な者もいれば、そうではない者もいる。今まで、皇子ではなく公主だと、周囲を騙してきたのだ。大麒が国にとって利となる存在なのか、懐疑的な目を向けられても仕方がない。けれど、そんな朝廷の中に入れと、龍翔は言っているのだ。
「優秀な科挙合格者を取り立て、改革を図ってはいますが、朝廷が落ち着くまでには、まだ時間がかかるでしょう。私が絶対の信頼を置く、私のそばで共に国の行く先を考えてくれる人が欲しいのです」
「兄上、私は」
何かを言いかけた大麒を、龍翔は手のひらで制した。
「よく考えて、それで返事を下さい。私にはあなたの力が必要です」
そう言い残すと身を翻し、龍翔は庭院を出て行った。
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