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頬をそよ風が撫でていった。先日まで蒸していた気温は、最近になり、ようやく和らぎつつある。風の中に秋の気配を感じ、青藍は目を細めた。
眼下に遙輝国の帝都の姿が見える。街は整然とした碁盤の目を描いている。北方に、広大な宮廷があった。その西側には、後宮が。
様々なことがあった後宮での暮らしも、今となっては懐かしい気がする。
白馬に跨がった青藍は、長い髪を頭上できりりと結び、男性の服を着ていた。馬の背には旅の荷物を乗せている。
(そろそろ来る頃かしら)
丘の下を眺めていると、鹿毛の馬に乗った男性が上ってきた。一見女性にも見える美しい容姿をしている。彼は、青藍の姿に気がつくと、目を丸くした。
「青藍! なんでこんなところにいる?」
「大麒を待っていたの」
青藍と同じく旅姿の大麒を見て、青藍は微笑んだ。
「勝手に帝都を出て行くなんて許さないわ。私もついていく」
白馬を大麒に近づけ、そう告げると、大麒は渋面になった。
「連れて行けるか!」
「ついていくったら、ついていく」
だだをこねる青藍に、大麒の表情が困ったものへと変わる。
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