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大麒は、遙輝国を出て行こうとしていた。国を荒らさないためだ。
血の繋がった兄弟同士でも皇位を巡って争うというのに、ましてや皇帝に双子の弟がいるとなれば、必ず、よからぬことを考える者が出てくるだろう。朝廷が落ち着きを見せた今、将来の争いを避けるために、大麒は龍翔のそばを離れることにしたのだ。
双子は不吉――それを、実現させるわけにはいかなかった。
大麒はこの半年の間、龍翔の補佐を務めてきたが、今の龍翔には大勢の味方がいる。大麒がいなくとも、しっかりと国を治めていけるだろう。
青藍はそんな大麒の考えを察し、先回りをして、待ち構えていたのだ。
「俺は、お前を連れて行く気はなかった」
「私は、大麒のそばを離れない」
きっぱりと言い切った青藍を見て、大麒は「やれやれ」と溜め息をついた。
「強情な奴……」
「褒め言葉として受け取っておくわ」
青藍は艶やかに笑う。そして馬首を巡らせると、
「さあ、どこへ向かう?」
と大麒に問いかけた。
「北? 西? 私、いろんな国を見たいわ!」
大麒が馬の腹を蹴った。ゆっくりと進み始めた大麒の隣に、青藍が寄り添う。
「お前の行きたいところに行こうか」
「なら、宝珠国かしら。あそこには、珍しいお菓子がたくさんあるらしいから。その後はもっと西へ行くの」
うきうきとした様子の青藍を見て、大麒が笑う。その笑顔にはもう孤独の影はない。
青藍もつられて笑顔を浮かべ、二人で向かうまだ見ぬ世界へと胸を弾ませた。
【了】
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