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饅頭をかじりながら、市をぶらついていると、
「そこのお嬢さん。ちょっくら見ていかないかい」
と声をかけられた。振り向いてみると、装飾品を販売している店の店主が手招きをしている。なかなか立派な店構えだ。気になって入ってみると、中では中年の男性が商品を物色していた。もう一人の店員が接客をしている。赤い天鵞絨がひかれた陳列台の上に、花の飾りのついた簪や、漆塗りの櫛、彫刻の入った笄などが、整然と並べられていた。手の込んだ細工物が多く、良い品揃えだ。
「わあ、綺麗ですね」
その中に、ひときわ輝く透明の石がついた指輪を見つけ、青藍は目を向けた。
「おっ、お嬢さん。お目が高い。それは遥か西の国から流れてきた幸運の指輪だよ。飾りについているのは玻璃の珠さ。綺麗だろう? 偶然仕入れることができた掘り出し物だよ」
店主の言葉に、
「幸運の指輪?」
青藍は小首を傾げた。
「そうさ。とある貧乏国の公女が持っていた物で、彼女は生まれながらに病弱だったんだが、国一番の細工師が作ったその指輪を献上されてから、あら不思議。病気は治って、隣国の皇子と結婚が決まったんだ。皇子の国は裕福だったから援助も受けられて、国は潤い、公女は皇子に大切にされて贅沢な暮らしが出来るようになった。たくさんの子供にも恵まれて、幸せな結婚生活を送って、めでたしめでたしさ。この指輪を手に入れれば、お嬢さんも後宮に上がって、皇子を授かって、ゆくゆくはこの国の皇后様になれるよ。さあ、これぐらいでどうだい?」
店主は一通り口上を述べると、指を立てて値段を示した。なかなかの金額だ。
「玻璃の珠のついた幸運の指輪かぁ……」
青藍はじっと指輪を見つめた。
そして、やおら髪の毛を一本抜くと、
「ちょっと失礼」
と言って、指輪を手に取り、玻璃の珠をゆっくり動かしながら髪の毛をのぞいた。
「何をやっているんだい?」
不思議そうな顔をしている店主に、
「……その値段、納得いかないです」
青藍はぼそりとそう言った。
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