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店を出て、歩き始めた青藍の隣に並び、翠玉が、
「青藍様は相変わらず現実的ですねえ」
と苦笑した。
「現実的?」
「幸運の指輪のお話です。全く信じていなかったでしょう」
「物で幸福になれるのなら、苦労しないじゃない。幸福は、自分で掴むものよ」
青藍が、ふふっと笑った時、
「あっ! こら、何しやがる! 泥棒! 待て!」
背後で大きな声が聞こえた。何ごとかと思って振り返ると、装飾品の店の店主が、店から飛び出し、先ほど店内にいた男性を追いかけて行った。
「泥棒? 大変! さっきのお店ですね」
心配そうな顔をした翠玉を置いて、青藍は走り出した。
「あっ、青藍様! 追いかけても、無理だと思いますよ~!」
翠玉が引き留めたが、青藍は、ちょうど馬を引いてそばを歩いていた行商人に、
「すみません、ちょっと貸して下さい!」
と言って、手綱を手に取ると、ひらりと馬に飛び乗った。
「えっ! お嬢さん!」
驚く行商人に構わず、馬の腹を蹴る。
そして、盗人を追いかけると、鮮やかに前方に回り込んだ。
「盗んだ物を返しなさい!」
前方を阻まれ、足を止めた盗人を、騒ぎに気がつき駆けつけてきた衛士が取り囲む。
盗人が捕縛されたので、青藍は安心し、行商人の元へ戻ると、礼を言って馬を返した。
「青藍様は貴族のお嬢様なのに……もう、おてんばが過ぎますっ」
呆れ顔の翠玉に、青藍は、小さく舌を出してみせる。
「本当に、こんな調子で後宮に入って大丈夫なのでしょうか……」
「これでも、行儀作法も勉学も芸事も、身につけているのよ」
青藍は自慢げに胸を張ったが、翠玉は心配そうだ。
「後宮に入るのは、私の夢だったんだから」
青藍は、市の向こうに目を向けた。建物の間から、宮廷を取り囲む壁が見える。あの中に、青藍の会いたい人がいる。
もうじき入宮する日を思って、青藍は胸をときめかせた。
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