一章

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一章

「星が綺麗ね」  高く鞦韆(ブランコ)を漕いで空を眺めながら、青藍はつぶやいた。  空には満点の星が輝いている。夜空に近づこうと、もっと高く鞦韆を漕ぐと、 「青藍様、こんな夜中に鞦韆なんて、危ないですからやめて下さいっ!」  青藍を注意する声が聞こえた。視線を足下へ移すと、翠玉が、おろおろしながら青藍を見上げている。 「大丈夫よ!」  大きな声で返すと、 「落ちたらどうするんですか! 怪我しますよ!」  と怒られた。 (慣れているのに。それに、鞦韆でも漕いでいないと、ここでは、運動不足になってしまうわ)  青藍は立ち漕ぎを続けながら、頬を膨らませる。  ここは遙輝国(ようきこく)の後宮。春花殿(しゅんかでん)。  青藍は一月前、皇帝の妃になるために入宮してきた。  現在の皇帝は二十二歳の青年で、名を紫龍翔(しりゆうしよう)という。二年前に即位したばかり。後宮も発展途上で、先代の皇帝には四十人いたという妃嬪(ひひん)も、今はまだ十人だと聞いている。  龍翔皇帝にはいまだ子供がなく、正室である皇后もいない。  妃嬪はいうなれば側室だ。最上位は、貴妃(きひ)淑妃(しゆくひ)徳妃(とくひ)賢妃(けんひ)の四妃。その下には、昭儀(しようぎ)昭容(しようよう)昭媛(しようえん)修儀(しゆうぎ)修容(しゆうよう)修媛(しゆうえん)充儀(じゆうぎ)充容(じゆうよう)充媛(じゆうえん)の九嬪が、さらに下には婕妤(しようよ)、美人、才人の位があった。  青藍自身は、賢妃という位に就いている。  下の位から成り上がってくる妃嬪もいる中で、実家の家柄も良く、最初から四妃の位に就いている青藍は、恵まれているといえた。  父親からは「お前は何があっても主上の味方でいなさい。主上が困っておられたら、お助けするように」と命じられている。青藍自身も「皇帝の役に立ちたい」という思いで入宮したのだが――。 (まだ一度も、主上にお会いしていない。お会いできるのを楽しみにしていたんだけどな……)  つい溜め息が漏れる。
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