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 わたしが生まれるずっと前から、人類はいくつかの世界を選んで生活するようになった……らしい。  一番最初に選ぶのは「現実世界」で生きるか「仮想空間」で生きるか。  現実世界を選ぶと次に「地球」か「月」か「火星」か「宇宙船」の四つの中から自分が住みたい場所を選ぶ。  仮想空間で生きると決めた人には、それとは比べものにならないほどたくさんの選択肢が与えられる。数百年前から現在に至るまでに空間作家が作った仮想世界で暮らすことも出来るし、新しい世界を一から作り上げることもできる。  思念体になることを決め、肉体を捨てて、まずはじめに訪れるのがたくさんの扉や窓がずらりと並ぶ空間。  そこでは長く思念体をしている人や、専門の人工知能が個々の思念体に合った世界をいくつか選んで紹介してくれる。  その中から自分が住む世界を選んでもいいし、もちろん自分の直感を信じてえいやと扉を開けてもいい。  もし万が一、紹介された世界にも自分の直感にもぴんとこないなら、今までにない全く新しい世界を作り出してもかまわない。  だけど、今さら新しい世界を作る思念体なんてほとんどいない。  先人達はおよそ考え得る限りの世界を全て作り上げてしまったから、ぽっと出の思考体が考えつくような世界はたぶん全部そろってる。   ただ、一度世界を選ぶと十年間はその世界で暮らさなくてはならないから、はじめは先駆者と専門家の意見を聞いた方が間違えなくて済む。  この場合の間違いが無いというのは、心を病まずに済むということ。  わたしたちにとって最も忌むべきものは「精神病」。  それだけがわたしたちを殺してしまう恐れのあるただ一つの病気だから。
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