目にもの見せてくれるわっ

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 アサギから子犬よろしく頭を撫でられ『可愛い』を連呼されること12回。  さすがにロッタも限界を迎えた。 「そろそろ、手を離して。アサギ」 「すまん。つい……」  ─── 可愛くて。  最後の一言は声に出さずに飲み込んだアサギだったが、3回目の『可愛い』からは、ロッタ自身に向けて紡いでいた。  でも、ロッタは自分の発言に向けてのコメントだと信じて疑わない。  そして主張はしてみたものの、これという策が思い浮かばず深々と溜息を吐いた。 「実は私、髪の色がグリーンだったっていうのは……」 「採用当初から欺いていたってことで、虚偽申告罪で投獄だな」 「だよね。じゃあ実は私、男ですってことでは……」 「これまで一度も同僚のメイド達に裸を見せたことがないなら、いけるが?」 「見せた。ついでに胸揉まれた。……無理」 「馬鹿野郎。揉ませんなよ」 「仕方がないじゃん。これは女同士のコミュニケーションなんだから……じゃなくって」 「ああ」 「……駄目だ。全然名案が浮かんでこない」 「だろうな」  頭を抱えるロッタに対して、アサギは大変不満そうであった。 「なぁ、ロッタさん」 「なんですか、改まって。アサギさん」 「君は俺のことを何だと思っているんだ?」 「大事な人ですが……何か?」 「……頼むから、不意打ちはやめろ」  アサギはほんの少し耳を赤くしてコホンと咳ばらいをした。 「俺は、唯一東の島国人で、この王宮での商談を許されている敏腕商人だ」 「そんなの、知ってるよ」  さらっと答えたロッタに、アサギは『鈍いっ鈍すぎるっ』と唸る。だが、ここで無駄な掛け合いはしたくない。  なぜなら、おさぼり目的のメイド達の声が近づいているから。 「ロッタ、俺を頼れ」 「……は?」 「俺はこの窮地を救える秘策がある。今はちょっと思案中だが、ロッタの一泡吹かせたいという希望を叶えてやれる。絶対に」 「いやでも、今、思案中って……」 「物事には準備が必要なんだ。案は出ているが、諸々の準備は今からってこと。で、頼れ。ロッタがうんと頷いてくれたら、商談成立だ」 「……う」  ”商談成立”って言う言葉がやけに引っ掛かるが、それでも今回は自分の力ではどうすることもできない。  アサギの力を借りなくては、家族全員死ぬ未来を避けられない。  だからロッタは、うんと小さく呟いた。 「おっし。言質は貰った」 「なんか物騒なこと言ってますが、アサギ…… 悪いけど私、そんなにたくさんお金持ってないよ」 「知ってる。今回は後払いで良い」  タダとは言わないアサギは根っからの商人だと、ロッタは呆れた。  でも彼の仕事ぶりは常に高評価だ。それに仕事と割り切って動いてくれる方が、ロッタは助かる。…… 後の請求が怖いけれど。  そんなふうにちょっとだけ怯えるロッタを残して、アサギは『じゃあ、3日後にここで!』と言って踵を返してしまった。  ロッタはアサギを引き留めようとしたが、すぐに同僚のメイドが姿を現し、手を引っ込めた。  そして今日もロッタは、夜伽のあれやこれやの質問攻めを受けてしまった。 
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