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えっ、嘘?! そっちなのかぁ
─── 5日後、とうとう夜伽を務める日がやって来た。
夜の帳が下りメイド達が仕事を終え各々の部屋に戻る頃、若草色のお仕着せを身に付けた側室担当のメイド4人がロッタの部屋の扉を叩いた。
「準備はできてますか?」
「……はい」
心の準備なのか、身体の準備なのかはイマイチわからないが、ロッタはとりあえず頷いた。
そうすれば側室担当のメイドは、ロッタを夜伽部屋へと誘導する。
廊下を歩くロッタの前後左右には、逃亡防止の為なのかメイド達がべったりと張り付いている。歩きにくいこと、この上ない。
でも、ロッタはメイド達の歩調に合わせて、そろりそろりと歩く。
頭の中は、これからの段取りでいっぱいだった。
一つでも間違えてはいけない。そして、このメイド達に感づかれてもいけない。
万が一失敗に終わったら、自分の首が胴体から離れるだけでは留まらない。
手汗はびっちょりで、心臓は壊れるほど早鐘を打っていた。
それから、うんざりするほど長い距離を歩かされる。
王宮はとても広い。メイドの居住棟などとうに過ぎ、渡り廊下を幾つも通り、また知らない棟に移動する。
ロッタは王宮メイドだけれど、下っ端の下っ端だ。
立ち入れる場所は限られているし、身分を偽っているロッタには冒険心など無いので、今いる場所は未開の地である。
でも若草メイド達に「ここ、どこですか?」などとフランクに聞ける雰囲気では無い。もちろんロッタの心情を察して、現在地を教えてくれる親切心も無いようだ。
だからロッタは、とにかく歩いた。
今日の為に与えられた特別な寝間着とガウンが、すうすうして妙に寒かった。
***
「お入りなさい」
ようやっと夜伽部屋に到着して、ロッタは促されるまま入室する。
イタすことを前提とされた部屋は、でででんっと天蓋付きのベッドがあるが、調度品は少なく、こぢんまりとしていた。
「一応、身なりの検査をさせて頂きます。ガウンを脱いでください」
「は」
最後の【い】を言い切れぬまま、4人の若草メイドはロッタの身体を遠慮無く触る。
同性相手とはいえ、他人にペタペタと身体を触られるのは不快でしかないが、ロッタは黙って耐えた。
「問題無いようですね。では、わたくしたちはこれで失礼します。陛下はすぐに参られると思いますので、粗相のない様に。……くれぐれも、くれぐれも、粗相のない様にお願いします」
「……はい」
大事なことなので2度言ったのであろうが、同じメイド相手に見下す視線を向けるのはどうかとロッタは歯ぎしりをしたい気持だった。
けれど、パタンと扉が閉まれば、思考はあっという間に切り替わる。
「では、やりますか」
ロッタは三つ編みにしていた髪の隙間から、粉薬の包みを2つ取り出した。
その一つを自身の身体に振りかけ……念のため、2つ目も振りかける。次いで、髪に指を突っ込んで小瓶を取り出す。
幸いなことに水差しが置いてある。それに数滴垂らす。
そしてベッドから離れた場所に立ち、国王陛下の到着をじっと待った。
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