えっ、嘘?! そっちなのかぁ

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 ロッタは国王陛下の元に嫌々ながら近づきつつ、無駄に三つ編みにした髪を背中に流したり、胸の位置に戻したりと忙しい。  落ち着かなくて、そうしている訳ではない。  アサギから貰った不能薬を陛下に向け、まき散らしているだけなのだ。  ただソファの前まで歩を進めた途端、ロッタはどこに座るべきか悩んだ。  ソファセットはローテーブルを挟んで、3人掛けのソファと一人掛けのソファがあり、陛下は3人掛けのソファに着席している。  一人掛けの方に座ってくれていたのなら悩む必要は無いのだが、己の立場を考えかつ怪しまれないようにするならば陛下の隣に着席するのが正解だ。……たぶん。  なにせアサギが用意した計画書には、ソファに座った場合の対処法は書かれていないから。 「……失礼します」 「あ、すまない。悪いけどこっちに座って」  悩んだ末に陛下の隣に着席しようとした途端、一人掛けのソファに座れと命じられた。  なんだか少しムッとした気持ちになるが、ロッタは平然さを装う。 「あと、この食べ物は絶対に口にしないでくれ。変な薬…… はっきり言ってしまうと、強い媚薬が入ってるから」  ロッタが着席した途端、陛下はすかさず注意した。  しかも自らの御手でロッタから皿を遠ざけるほどの徹底ぶりだ。ついでに飲み物も口にするな。喉が渇いたのなら、果実で水分補給をしろとまで言ってくる。  さすがにここまでされたら陛下がこの夜伽に乗り気でないことに気付く。 「恐れながら陛下、ご確認したいことがあります」 「うん。良いけど……その前に、私からも話があるんだ。…… 他言無用の」 「か、かしこまりました。で、で、では、陛下からどうぞ」  ”他言無用”という単語だけ妙に凄みがあったせいで、ロッタはどもりながら陛下に発言を譲ることにした。  ただ、もう既に陛下が何を自分に伝えたいのかは何となく気付いているけれど。 「ロッタ嬢、まず今日はこんな夜中にここまで来てくれてご苦労だった」 「いえ、めっそうもございません。ありがたき言葉をいただき恐悦至極でございます」 「そんなに、かしこまらなくて良いよ。で、こっからが本題なんだけれどね」 「……はい」  ロッタがごくりと唾を呑んだ瞬間、陛下はぐっと強く己の指を強く組み合わせた。  次いで自分の罪を告白するような重い口調でこう言った。 「私は君を抱くことができない」 「……は?」 「本当にすまないが、今現在……私は男として機能していないんだ」 「……そっすか」  思わず素の口調でロッタは相槌を打ってしまった。  うっかりの凡ミスをしでかしてしまったけれど、陛下は不敬罪だとロッタを責め立てることはしない。  ただ疲れ切った笑みを浮かべて『そっすよ』と返した。意外に茶目っ気があるようだ。  と、いうことは置いておいて。  あまりに意外な展開になってしまい、ロッタは気持ちを落ち着かせようと大きく息を吸った。  その瞬間、体中に振りかけた不能薬が鼻に入って、思わずくしゃみをしそうになってしまった。
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