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とことん人を虚仮にしてくれる王妃に、ロッタは思いつくままに悪態を吐きたい気持ちでいっぱいだ。
けれど、心底申し訳なさそうにしている国王陛下を前にして、口に出すのは得策ではない。
ただ理性で抑えることができる怒りではない。
連帯責任として、わなわなと震えるこの拳を、陛下の顔に埋め込んでも良いだろうか。いや、さすがに駄目だ。
「ロッタ嬢、妻が君に対して大変失礼なことをいったようだ。私に免じて許してはもらえないだろうか。───…… この通りだ」
「……!!」
行き場を失った拳を持て余していたら、あろうことか陛下はロッタに向かって深く頭を下げた。
さすがにここまでされたら、ロッタも怒りを鎮めなければならない。
「妻の名誉を回復したいのだが、聞いてくれるだろうか」
「……聞くだけなら」
不貞腐れた返答でも、今なら許してもらえるだろう。
そしてこれで手打ちにしてやろうと、ロッタは寛容な気持ちで椅子にふんぞり返ってみる。
「君の慈悲深さに感謝する。───…… 妻は、ただ追い詰められているだけなのだ。子ができないことに。そして、男として使い物にならない私に対して、詰ることができない現状に」
「…… はぁ」
「私はもともと不能では無かった。結婚した当初は、男として問題はなかった。いや、マルガリータから自分の代わりにと側室を宛がわれるまでは、大変元気だった」
「…… さようですか」
「だが、マルガリータが選んだ側室を初めて抱いた日から、私は男としての機能を失った」
「…… それはそれは」
「妻、マルガリータが夜な夜な私を責めるのだ。愛していない女を抱くなど、お前はケダモノなのか、と」
「……」
「私は精一杯、愛しているのは君だけだと訴えた。そして身体でこの想いを伝えるべく、妻を抱こうと思った」
「……」
「だが、できなかった。何をしても、どうやっても、もう一人の私は冬眠してしまったかのように、うんともすんとも言わなくなってしまったのだ」
ここで一旦言葉を止めた陛下は、片手で顔を覆った。
今更であるが、国王陛下ことルーファスは、金髪碧眼のイケメンである。
マルガリータより4つ上だから、今年で三十路のダンディなイケメンである。
そんなイケメンが苦悶の表情を浮かべているのだから、それはそれはぞくぞくするほど美しい姿である。
でも、内容が内容だけに、ロッタはとてもじゃないけれど、ときめかない。
そして自分の身体に不能薬をばんばんに振りかけたことなど綺麗さっぱり忘れて、ロッタは陛下にこんなアドバイスをしてしまった。
「復活できる薬を飲んだ方が良いんじゃないですか?」
「既に服用済みだ」
覆っていた手を離して微笑んだ陛下は、とても疲れた顔をしていた。
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