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ロッタの申し出に、マルガリータは”少しなら”と条件付きで許可を出す。
ニュアンス的には、嫌だ聞いてくれるなと伝わってくるが、ロッタはそれを都合よく無視して口を開いた。
「わたくしが陛下の夜伽を務める……というのは本当なのでしょうか?」
「ええ、そうよ」
「それは何故でしょうか?」
「あなたがわたくしの髪と目の色が同じだからよ」
「……さようでございますか」
2つ目の質問をした瞬間、マルガリータの後ろに控えていた女性たちが悪鬼の如くロッタを睨みつけた。
そしてがっつりと「察してやれよ!」と訴えてくる。
もちろんロッタも、だいたいの事情は察している。
マルガリータは8年前に、この国の国王陛下であるルーファス・フィ・リンフィーザの元に嫁いだ。娘盛りの18の頃だった。
もともと建国から続く大貴族のご令嬢の輿入れときたものだ。それはそれは豪勢で華やかな婚礼の儀であったと聞く。
そしてその後も、マルガリータは国王陛下の寵愛を一身に受け、仲睦まじい夫婦であると国中の民が喜びの声を上げていた。
けれど、それから3年経過してもマルガリータが懐妊することはなかった。
そして4年目になると、マルガリータはこう呼ばれるようになってしまった─── 【石女王妃】と。
女性蔑視も甚だしい。
けれど、王妃の最大の仕事は世継ぎを産むこと。そもそも王宮というのは、一般的な倫理観が通らない場所である。
だからマルガリータはその不道理を逆手に取って奇行に出た。
ロッタはこの王宮メイドとして勤め始めて、まだ半年の新米メイドだ。でも、王妃の噂は王宮に入ってすぐに聞かされた。
王妃は自ら側室の選別をしていると。身分は二の次、容姿重視、とにかく自分の髪と目の色が同じであることを重要視していると。
『だからあんたも、お側室さまになれるかもね』
古参のメイドは、冗談交じりにロッタにそう言って笑った。対してロッタは、笑えなかった。
ロッタの髪は王妃と同じラベンダー色だ。そして瞳は濃い藍色。
でも、全く同じではない。ロッタの髪質は癖が無いが、マルガリータは緩く波打っている。瞳の色だって、良く見ればロッタの方が青みがかっている。
それに何より、身体つきも違えば顔のパーツだって違う。マルガリータは艶やかな美人であるが、ロッタは可愛らしいという表現からはみ出すことはできない。
「もう良いですわね。わたくし身体が冷えてしまいましたわ」
マルガリータは少し苛立った口調で、ロッタとの質問の時間を強引に終わらせてしまった。
すぐさま、取り巻きの女性達は「あらあら大変」と騒ぎだす。そして、そのまま東屋を後にしようとする。
でも、確認しなければならないことはまだ残っている。
「マルガリータ王妃、単刀直入に伺いますが、わたくしに陛下の側室になれと命じているのでしょうか?」
ストレートに問うた途端、マルガリータはぷっと吹き出した。後ろに控えている女性達も、同じように。
「ふふっ、あなたってとっても面白い人ね。あはっ、うふふっふふっ……可笑しくて、笑いが止まらないわ。ちょっと待って、ふふっ……」
マルガリータは、とんでもなく面白い冗談を聞いたかのようにしばらく笑い続けた。
でもロッタがいい加減、苛つきを覚え始めた頃、ようやっとマルガリータは口を開いた。無邪気な笑みを、侮蔑の笑みに変えて。
「メイドが側室なんて身分不相応も甚だしい。弁えなさい」
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