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疲れ切った笑みを浮かべる国王陛下は、世界中の苦渋を一身に受けたような顔をしている。
渋めのイケメンが憂えた状況は、まさに絵になる様だった。
けれどロッタは、至極冷静に心の中でツッコミを入れていた。
いや待って。妻の名誉を回復したいと言っていたけれど、回復できる要素皆無なんですが。
あと、私は、お二方の茶番に付き合わされた挙句、下手をしたら死ぬ運命にあるんですか?
はっきり言っていいですか?あんた達、馬鹿ですか?
そんなことをつらつらと頭の中で紡ぐロッタに、国王陛下は目を細めた。
「君はきっと、このような話がマルガリータの名誉回復にならないし、機密情報を知ってしまったから、最悪極刑に処される。なんて馬鹿なことをしてくれたんだ、と思っているのだろう」
「いえ、まさか」
食い気味に否定したが、100点満点で正解だ。
「わかっている。君が私を前にして思うがままの言葉にすることができないということは……。すまない」
「あ、いえ」
「だが、話を聞いてもらえて良かった。気持ちが楽になった」
「……さようですか」
晴れ晴れとした国王陛下を前に、ロッタは委縮した。
そんなロッタを見て、国王陛下はふっと肩の力を抜いた笑みを浮かべた。
「今宵の事は、すべて私に任せてくれ。君に何一つ落ち度がなかったと女官長に伝えておく。それに報奨金も、こちらで用意する」
「それは要りません」
「いや、受け取ってくれ。これは愚痴を聞いてもらった私からの礼だ」
きっぱりと言い切った国王陛下は、よしっと気合を入れるように膝を叩いて立ち上がった。
「……それでは私は、ここで失礼するよ。君はここで休んでも良いし、部屋に戻っても良い。好きにしなさい」
「……はい」
去っていく陛下の背を見つめ、ロッタは膝の上でぐっと両手を握り合わせた。
子供ができないけれど、世継ぎを作らなければならない王妃の責務。
愛した男には一途でいて欲しいが、別の女を差し出さなくてはいけない女の苦悩。
マルガリータは静かに心を病んでいたのだろう。
そして、陛下はそれに気付いていて、王妃の壊れた心を受け止め続けていた。
ああ、なんて悲しい愛の形なのだろうか。
この二人がただの夫婦であるなら、こんな辛い思いはしなかったはずなのに。
光り輝く道をずっと歩き続けているやんごとなき方々には、それなりの苦労がある。辛さがある。そしてそれを決して見せてはいけない枷がある。
心からロッタは、国王陛下と王妃に同情した。
……だがしかし、世の中綺麗ごとで済まされないことがある。
ロッタが受けた数々の屈辱は、金で済まされるものではない、プライスレスだ。
そして齢16にして一家離散という惨事を味わったロッタは、そんじょそこらの女の子ではなかった。
「お待ちくださいませ、陛下」
「ん?どうしたんだい?」
振り返った陛下に、ロッタはにこりと笑ってソファを指さした。
「恐れながら、陛下の憂いを取り除く秘策がございます。お掛けくださいませ」
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