目にもの見せてくれるわっ

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「探したよ、シェルロッタ」 「馬鹿!!」  ロッタは振り向きざまに声を荒げた。  暴言を吐いたところで問題ない。この広い王宮でその名を呼ぶのは一人しかいないから。  背後から忍び寄ったのは、アサギという青年だった。  彼は東の島国出身の商人で、今年26歳になる。この国では珍しい漆黒の瞳と髪。すらりとした長身で、なかなかの美男子た。  そしてロッタのことを良く知る、いわゆる幼馴染というものだったりする。 「酷いなぁ、シェルロッタ。俺、王宮内を探し回ったんだけど」 「だからフルネームで呼ぶのはやめてよ。……誰が聞いてるかわからないんだから」  幼馴染とはいえ、相手は9つも年上だ。その態度は失礼である。  けれどアサギは東洋の血のせいか年齢よりも若く見えるし、タメ口で会話するのが二人にとって当たり前。  年頃同士になったとはいえ今更、口調を改める方がかえって違和感を感じてしまう。  ただ呼び名だけは、今すぐ変えて欲しいとロッタは切に願っている。なぜならロッタは身分を偽っているから。  ロッタこと、シェルロッタは一年前までは辛うじて男爵令嬢と呼ばれる身分だった。  けれど父親が多大な借金を抱えてしまった為、家を維持することができず没落してしまったのだ。爵位はもう国王の元へ拝辞してあるから、今は家族全員ただの平民。  ただ財産を整理しても借金は結構な額が残ってしまった。   母の実家は、子爵であるがこれまた貧乏である。  そもそも没落した原因は、母方の実家にある。祖父に泣きつかれた父が、代わりに借金を請け負ったから。  そして現在も借金好きで、散財ばかりしているそうなので援助などとうてい頼めない。  だから現在ロッタの両親は、王都から遠く離れた父方の実家に身を寄せている。  ロッタには弟がいるがまだ幼いので、両親と共にいる。将来は貴族ではなく医師になりたいという夢を持っている。いじらしくて、是非とも叶えて欲しい。  そんなわけでロッタは働くことにした。借金返済と、弟の学費のために。  幸い貧乏暮らしのおかげで淑女としての教養は身についていないし、メイドもいない生活だったので、家事全般はお手のもの。プライドでは空腹はしのげないことだって知っている。  しかもタイミング良く、そこそこ高給職の王宮メイドの求人を見つけたのだ。  これに応募しない手はない。  一つ問題があるとすれば、雇用側が没落したての旧男爵令嬢を雇うかどうかだけ。  そこでロッタは一計を案じた。  唯一の使用人である執事のロバートに頼み込んで彼の遠縁の姪にしてもらったのだ。  ちなみにこの一連の出来事をアサギは知っている。そして力になりたかった。  なのにロッタはアサギを頼ることも「困った」とか「辛い」というセリフすら口に出すことはしなかった。  それをアサギは、大人げなくも根に持っていたりする。
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