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「……夜伽?」
「うん」
「……陛下と?」
「うん」
「……8日後に?」
「うん」
うわ言のように呟くアサギに、ロッタは律義に返事をする。
それからしばらくアサギは腕を組んで瞠目した。なにやら考え込んでいるようだ。
「ロッタ、まさか君はそれを受け入れるのか?」
随分待たされたと思ったら、ド直球な質問をされ、ロッタはたじろいでしまった。
「……え、あ……う」
幼馴染であるアサギには、嘘は付きたくない。
そんな気持ちから【ん】まで言い切ろうと思ったけれど、それは口に出すことができなかった。
アサギが今までに見たことがないほど怖い顔で睨んでいたからだ。
「そもそも誰がそんなこと言い出したんだ?」
肩を震わせ縮こまってしまったロッタに気付いたアサギは、努めて穏やかに問い直した。
「……王妃が」
「ああ」
「……私の髪と目が」
「ああ」
「……同じ色だからって」
「ああ」
「……だから陛下だって私なんか抱きたくないけどやれって」
「あ゛あ゛?」
怯えながら答えてくれるロッタを怖がらせないように、アサギは辛抱強く頷いていたけれど、最後はドスの利いた声を出してしまった。
ロッタはすぐさま距離を取る。
二人の間には、互いが腕を伸ばしてもまだ馬2頭は入る余裕ができてしまった。
「私だってやりたくないよ。でも、断ったら断罪だよ?逃げても断罪だよ?お父さんもお母さんも弟も、私の行動次第で死んじゃうかもしれないんだもん。やらなきゃいけないよ。──……嫌だけどさ」
風に乗ってロッタの愚痴がアサギの元まで届いた。
ロッタは不貞腐れた表情で、地面の小石を蹴っている。
─── コツン。
ロッタの蹴った石がアサギの足に当たった。
「あのさぁ、陛下と夜伽をするってことはロッタは側室になるってことなのか?」
アサギはゆっくりとロッタに近づきながらそう言った。
すかさずロッタは、違うと身体全部を使って否定する。
「ううん、まさかっ。私、側室にはならないよっ」
「は?どういうこと?」
「王妃が言ったの。”メイドが側室なんて身分不相応も甚だしい。弁えなさい”って。だから、私───」
再びロッタは、最後まで言うことができなかった。
今度はアサギが、ぞっとするほど冷たいオーラを出していたから。しかも彼はすぐ傍に来ていた。
どこが彼の逆鱗に触れたのかまったくわからないロッタは、恐怖のあまり、脱兎のごとく逃げ出そうとした。
でも、アサギは素早い動きでロッタの肩を掴むと、小さな耳に唇を寄せた。
「なぁ、マジな話だけど、王妃のこと殺していい?」
「……いや、普通に駄目でしょ」
あまりの怖さのせいで素に戻ったロッタは、淡々とした口調でふるふると首を横に振った。
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