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学校が夏休みに入ったので、わたしはお母さんと一緒に静岡にあるおばあちゃん家へとやってきた。おばあちゃんの家は緑に囲まれていて、とても長閑だ。庭なんてないマンションに住んでいるわたしからしたら、おばあちゃん家はどこかの豪邸に見える。
川沿いへとやってきたわたしは、石畳を選び踏み上げながら道を進む。日中は人で賑わう水の苑緑地も、時間が早いためか誰もいない。
水流の音に耳を傾け、深呼吸をする。その瞬間、世界にわたしだけのような錯覚にとらわれた。時が止まったような。そんな不思議な感覚。
源兵衛川の流れを視線で追いながら、わたしはゆっくりと下流に向けて歩いていく。川を縁どるように伸びる木の枝が、緑の匂いを振りまいている。わたしは胸いっぱいに、それを吸い込んだ。
そのとき、不意に視界に入り込んだ、蒼い何か。
不思議に思いながらも、その方へ近づいていく。シルエットからして人であることが分かったとき、何だか自分だけの世界が侵されたように感じた。
「・・おや、珍しい。子どもがひとりか」
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