源兵衛川のに住まうは

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 人魚は、顎にその長い指を添え、ならば、と言った。  「今、来るがいい」  そう言って、人魚は腰を浮かしその川の中へと入っていく。わたしは呆然として、その様を見ていた。すると人魚は訝し気にわたしを見つめる。  「その履物ごとでいい。多くの子供たちは皆そのまま私の中に入ってくるからな」  突っかけるように履いているのは、橙色のビーチサンダル。丸い綿毛のような花があしらわれたお気に入りだ。  私はどうしよう、と悩んだが、スッと背筋を伝う汗の感覚に意識が向く。その途端に、水を浴びたい欲求に駆られた。  少しくらい、いいかな。  ゆっくりと足を運び、右足から川の中へと踏み入った。わたしの足を避け流れゆく水流はどこまでもなめらかで穏やかだ。  続けて左足。ひんやりとして気持ちがいい。  そんなわたしの様子を見守りながら、人魚は穏やかに微笑んだ。  「ほう、そうか。お前、兄弟が生まれたのか」  唐突に放たれた言葉。わたしは瞬きをする。  「なんでわかるんですか?」  びっくりして、思わずわたしは問い返す。  「水には、記憶がある。お前の体内にある水の記憶が、そう教えてくれた」  人魚の言う説明に、そうなのか、と私は頷く。
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