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「これで、私はお前を記憶した。…またいつでも、ここに帰ってくるといい」
頭に置かれた手は、とても大きい。わたしは、久しぶりに誰かに撫でられる感覚を味わった。
その手は相変わらず冷たい。それでもわずかにぬくもりを感じたのは、陽が高く昇り下される陽の光のせいだろうか。
「ああ、いたいた。有海」
背後からかけられた声に振り向く。通りに立っていたのは、おばあちゃんだった。片手をあげて、おおーい、と手を振っている。
わたしはひとつ返事をして、そこにいるであろう人魚に挨拶をしようと振り返った。
「…あれ?」
そこにはもう、いたはずの人魚はおらず。わたしひとりがその川の中に佇んでいたのだった。
「ああ、そりゃあ有海、源兵衛川の主さんに会ったんだね」
帰りが遅いからと心配して迎えに来てくれたおばあちゃんが、わたしの話を聞くなりそう告げた。
わたしは瞬きをしながら、源兵衛川の主さん?と繰り返し尋ねた。
おばあちゃんは嬉しそうに微笑みながら、源兵衛川の水辺の環境が悪化し汚れた川のシンボルとなっていたこと、そしてそれは人の手で改善され、今のかたちへと変化していったことを話してくれた。
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