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白い砂浜
その刹那であった。
キミの家は一瞬にして収縮し、元の大きさに戻ったのだ。
だがキミは家に戻ろうとはしなかった。
戻ろうとして、また大きくなったら厄介だと思ったからだ。
あの布団があって、暖炉の余熱があって、この大きさの家ならば、ワタシも凍えずに済むだろう。キミはそう思ったのだ。
キミは冷酷な風の本調子を身に刻みながら歩いた。
白い息を吐きながら歩く。目指すのはワタシの家だ。
ワタシが歩いてきた方角に進んでいけばいつかは辿り着くだろう。そう思った。それにあの冷凍庫のように冷え切った箱の中でがたがたと震えているより、寒風の中でも歩いていた方がよほど温かい様に思えた。何よりワタシから借りた外套が存外暖かく、家に居た時よりも体が温まっているというのだから、キミの考えは間違っていなかった。
ワタシの家に着いたら火ばさみとゴミ籠に成り得るものを拝借しよう。キミはそう考えていた。
月影はどこまでも海と砂浜とキミを照らし続けた。
海の、水平線の上では今日もまた青白い光が瞬いている。
そのままいったいどれほど歩いただろうか。
キミは足腰が疲れるよりも体が温まると言う喜びがあったから、兎に角歩き続けることができた。
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