黒いゴミ

1/1
前へ
/14ページ
次へ

黒いゴミ

 扉の先には同じようで同じではない景色が広がっていた。  まず同じなのは砂浜が白く平らにあると言う事。また、青色の海が潮騒(しおさい)を奏でていると言う事。  同じではないのは、幾人(いくにん)ものワタシが居た事。  一人は喜びの歌を歌いながら。  一人は怒りに叫びながら。  一人は哀しみに膝を折りながら。  一人は楽し気にスキップをしながら。  (みな)、思い思いに海の向こうに向かって投げていた。  白い(かたまり)を。  ぽちゃんと言う音が潮騒に飲み込まれ、それはふよふよと浮きながら沖へ沖へと流れて行く。  もしかするとあの黒いゴミは、この白い塊の成れの果てなのか。キミは瞬時にそう解釈した。  で、あるとするならば、このワタシ達はずっとずっと昔から、キミが夜の寒さに凍えないように、一人一人の感情はどうあれ、投げ続けていたと言う事になる。  あの橙色(だいだいいろ)の暖かい炎を作る為の、燃料と成り得る何かを。  キミは砂浜に転がった白い塊を拾い上げた。  キミは渇望(かつぼう)した。  あそこで暮らすワタシの安寧(あんねい)を。  ワタシが凍えてしまわぬように、海の向こう側に届きますようにと願った。  キミは大きく助走をつけて思い切り白い塊を海へと投げた。    ――キミはワタシになった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加