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ワタシ
いつも通りに起きて、キミはゴミ拾いに出掛けた。
いつも通りに拾っていると、向こう側から何かが近づいて来た。
砂浜を慣れたような足取りで歩いてくる。
キミは急激な緊張に襲われた。初めて自分以外の人を見たから。
不安と焦燥が押し寄せたまま帰っていかない。波とは違う潮騒が耳の付け根で不協和音を奏でる。
そんなキミの心配を余所に、その人物は歩調も変えずざっざっと砂を蹴り蹴り近づいてくる。
キミは意を決して話し掛ける事にした。
「あの、すみません、すみません。どちらさまでしょうか?」
するとその人物は何拍か置いて、キミを見た。
「ああ。ああ? ……嗚呼、はい。何か?」
最初は特に何の気もなく、次には意識を取り戻しながら現状を探るように、最後にはどこか諦めて溜め息を吐くかのように、感情を目まぐるしく変えながら質問を返した。キミの言った言葉はあまり伝わってなかったようなので、もう一度言い直す。
「どちらさまでしょうか?」
「ああ。ああ? ……嗚呼、ワタシ? ワタシはワタシだよ。それ以外ではない」
それはそうなのだろうけれどもさ。とキミは内心思っている。呆れたように開かれた口が言わずもがなに語っている。
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