返事の予告

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返事の予告

「あっ」 その日入院してきた彼女を見て思わず発してしまった 白衣を着ている時は、常に冷静を心掛けていたのに 私としたことが… 直接話したことはなかったけど、前々から姿は見ていたから 食堂や売店、頻度は少ないけど更衣室でも何回か 元気で明るくて楽しそう!というイメージを持っていた いつだったか、オペ前訪問に来ていたのを見かけて、オペ室勤務なのだと知った 入院してきて受け持ちになり、名前を知った彼女、河合美樹。 その彼女が、今、初めて泣いた 私の部屋で 私の隣で 良かった。そう思った ✴︎✴︎✴︎ ずっと泣いていなかったから。 患者としては模範的だ 取り乱しもせず 泣きもせず 淡々と過ごしているように見えた ただ 知り合う前に見かけてた、あの太陽のような笑顔は消えていた 笑わないわけではない 口角を上げて微笑むことはあるけど クセなのか 時折りキュッと唇を噛みしめることがあって 泣くことが出来たら少しは楽になれるのになぁと思ってた そういえば、彼女じゃなくてお姉さんの方が盛大に泣いていたな 手術の同意書の提出をお願いしていたけれど、なかなか出してもらえなかったので話を聞いた 「ご家族に話しにくかったら、私が話そうか?」 「いえ、自分で話します。でも、そばにいて貰えますか?」 「もちろん」 ご両親は体調面に不安があって心配かけたくないということで、お姉さんがやってきた 話を聞いてとても驚いているように見えた 「なんでこんな大事な事、、もっと早く話してくれれば良かったのに」 「泣かないでよ、お姉ちゃん。大丈夫だから」 お姉さんは はぁぁ、と一つため息をついて 心を落ち着かせているようだ それから聞いた 「祥子は?知ってるんだよね」 「うん、しこりに気付いた時に相談してた」 「そんなに前から…」 「私が口止めしてたの」 「そっか、わかった。お父さんたちには折を見て私から話しておくから」 「ありがと」 乳腺外科の病棟は明るい 女性、それも“おばちゃん”と呼ばれる世代が多いからか 病室から、よく笑い声が聞こえる 隣の血液内科病棟の看護師からは 「そっちは楽しそうだねぇ」と、よく言われる そんな、おばちゃん達にも彼女は可愛がられてた 手術も無事に終わり 経過も順調で 結局、入院中に彼女が泣くことはなかった 私は担当看護師として接し 退院の日を迎え 「おめでとう」と言って彼女を送り出した 少しの気掛かりを残しながら
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