妹、そして決断

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 神宮寺は勢いよく振り返った。が、バイクはもういなかった。  髪の毛を持っているほどのファンなら、演じているのが誰なのかわかってしまう――唯の言葉はそういう意味だったのではないか。  だとしたら唯は、神宮寺の正体を知ってて知らないフリをしていた? 一体いつから?  ――もう考えないことにした。  自分は唯の前では最後まで神宮寺を演じると決めた。唯も最後まで妹を演じようと決めたとしても、何も不思議はないように思えたから。  もっと普通の出会い方をしたかった。もっとベタな出会いでよかった。  彼女の落としたハンカチを拾った。本屋で同じ本を取り合った。お互い急いで走っていたら偶然ぶつかった――そんな、三文小説のようなありふれた出会い。  兄と妹としてでなく。兄を殺した男とその妹としてではなく。  平凡な出会い方をしたかった。  そんなことを思いながら、片瀬は警察署の前に立った。これが片瀬のヤム・ナスカだ。  自分で選び直した道だ。今度こそプライドを貫こう。
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