紗綾の場合

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紗綾の場合

「今日はどんな顔にしよっかなぁ!」 紗綾はパソコンを開く。 「アンジェリーナジョリーみたいな顔もかっこいいけど、私背が低いからなぁ。全身のメタモルフォーゼとかできないかな?」 紗綾は慣れた手つきで顔のパーツを選びながらブツブツと呟いた。 「これでよし!昨日はちょっと幼すぎたからね、今日はグッと大人っぽい顔にしちゃおっと!」  専用パッドは高額だ。 学生の紗綾にそうそう手の出るものではない。 「ワンデーのコンタクトレンズだって、何日か使ってても大丈夫じゃん?」 紗綾は得意のご都合解釈でここ数日同じパッドを使い整形を繰り返していた。 「ほぉら、うまくできた!」 彫りの深い、切れ長目尻の美人に作り替えた自分の顔を鏡に写し、紗綾は満足げに頷いた。  顔に合わせて大人っぽい服を着ると、紗綾は自分の姿を誰かに見せたくなった。 「渋谷を歩くにはちょっと大人っぽすぎるかもね」 紗綾はホームグランドの渋谷ではなく、六本木を目指して電車に乗った。 「六本木でもスカウトとかあるのかな?」 そんなことを呟きながらホームに降り立った紗綾を見て、女性が金切り声をあげた。 「きゃあぁぁ!!」 並んでいた群衆が紗綾を避けるようにザザッと退く。 「はぁ? 何よ?」 紗綾は悲鳴をあげたおばさんを睨み付ける。  おばさんは真っ青な顔でガタガタ震えている。どうにも様子がおかしい。 紗綾が一歩出ると群衆は一歩退く。  人垣をかき分けて駅員が走ってきた。 紗綾の目からポトリと何かがプラットホームに落ちる。 (えっ? 私、泣いてなんかいないのに……) 顔に手を当てた紗綾は異変に気づいた。 (何……これ?) 手にはベットリとゲル状のものがついている。 「い、いやあぁぁぁっ!!!」 思わず振り返り、閉じた列車の窓に写った自分を見た紗綾はさっきのおばさんに負けないくらいの大声で叫んだ。  紗綾の顔はゲル状に溶けてボトボトと流れ落ちていた。
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