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蛹化不全症候群
意識を失っている間に紗綾は病院に運ばれたようだった。
目を覚ましたとき、なにやら水中で漂っているように感じられた。
声が聞こえる。
プール上がりの耳に水が入っているかのように、音がくぐもって聞こえる。
しかし、何とか声を聞き取ることはできた。
「一体これはどうなっているんですか?」
(お母さん……)
おっとりとした母が珍しく声を荒げている。
「落ちついてください」
これは聞き覚えのない男の声だ。
「我々は『蛹化不全症候群』と呼んでいます。要はメタモルフォーゼを頻繁に行いすぎて、再生が追い付かなくなり、細胞が形を保てなくなった状態です」
「娘は……娘は治るんですよね?」
「お嬢さんはパッドを複数回、使い回していたようです。違法行為なので治療には保険が使えません。
メタモルフォーゼに失敗した以上、治すには外科手術でパーツを再建するしか手はないのですが、なにぶん顔面が全て液状化してしまっているので、どこまで再建できるか……」
医師の声はそこで途絶え、代わりに母の泣き叫ぶ声が病室に響いた。
『美しい蝶になるのも命がけなのよ』
水に浸されたような紗綾の耳に、コプコプと虫たちの嘲笑が聞こえたような気がした。
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