并政十九年八月十日

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妾の名は鹿島真姫。 名乗る程のモノではございませんが、場繋ぎ程度に使えれば儲けでしょう。 ほんの数日のつもりだったと思います。 少しのうたた寝程度のつもりだったかと。 しかし目覚めてみれば時代は移り、聶和が終わっておりました。 さよなら、思い出の聶和。 おはよう、新時代の并政。 瞬く間の出来事であったようです。 かねてからせっかちと指差される身なれど、人の忙しなさには脱帽します。 気が付けば、寝床は荒れ果て廃墟と化し、何やらクソガキ達の憩いの場となっておりました。 家無し、金無し、男無しなどさして気にも留めませんが。 はて、どうしたものでしょう。 腹を満たせたのは幸先が良かった。 食後故の睡魔に襲われるも二度寝をするのは憚られます。 この流れからのさよなら并政は、滑稽でしょう? はて、どうしたものでしょう。 寝起き故か頭に霧が掛かったように意識がはっきりしないのです。 昨日を無くした妾に明日を仰ぐ道理はなく、仕方なく今日を持て余す事と相成りました。 先程、金無しと申しましたのはあくまで寝起きの様をさしてのことです。 成り行きでの振る舞いが人助けになりまして、感謝の気持ちを金銭にて受けとりました。 幸先良く腹と懐を膨らませた妾は、快適な寝床を求めて古巣を後にしたのです。 ですから新幹線には正規の手順で乗りましたし、あの事件に出会したのは只の偶然に他ならないのです。 後ろめたい件を問われれば。 あの時手持ち無沙汰に差していた刀は、妾の唯一の財産なのです。 かつては決まり事に沿った許可証もあったのですが、寝落ちしている間に失くしてしまったようなのです。 廃墟になぞ放置するわけにもいかず、仕方なく持ち歩いております。 例え今回の件がなくとも腰を落ち着けたらこちらから伺うつもりでしたので堪忍してください。 妾から話せるのはこれくらいですよお巡りさん。 残念でしょうが事件の概要についてなら、妾はほぼ部外者です。 関わる頃にはもう後の祭りでしたから。 ・ 貴女の言い分は分かりました。他の証言とも食い違いは見られません。 虚偽の疑いは低い。事実、関わりはないのでしょう。 しかしそれだけです。鹿島さん、貴女は嘘偽りなく語ってはいますが本質はぼかしていますね? …私、分かるんです。勘じゃありませんよ? 私は経験者です。 貴女の目は悪意に満ちています。 ひとでなしのソレです。 むせ返るような悪を前によく分からないからと見逃すようでは、警察官を名乗る資格はありませんから。 話してもらいますよ。 貴女の正体を。 「また、随分と気に入られましたね」 「妾も貴女に興味が湧きました」 「名前を伺っても?」
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