オレの名は

　オレは気になるものがもうひとつある。
　自分の本名だ。

　オレは自分が兄弟と濃い血でつながっているのは感じるので、兄弟の名前を忘れることはない。

　ただ、自分の本名だけは、パソコンに触らなければ思い出せないことが多い。

　オンライン草むしりも当然、本名を思い出すきっかけにはなる。

　しかし、オレの深層心理で、自分の本名を受け付けないなにかが働いているから、すぐに忘れてしまうのだろうかと自らを詮索する。

　そして問う、オレはなにものなのだ？

　草むしりは好きだ、これをオンラインで生計の糧にもしている。

　ただ、忘れやすいオレには、パソコンだけがオレの存在の認識を確かめてくれるツールなのだ。
　そのようなオレの本名を確認できるのだ。
　もうオレはパソコンなしでは自分自身を認識できなくなっているらしい。

　自分のアイデンティティすらも…。

　　　　　　　　　　 ＊

　兄弟の内で海藻つかみ坊や兄さんだけが音信不通だ。

　オレは自分のことが分からなくなってきても兄さんの心配がむくむくと湧き立つ。

　最近は日本各地の海岸を巡って、海藻つかみ坊や兄さんの消息を尋ねている。
　手がかりらしいものはなにもないので、いろいろな海岸を歩き廻る。

　だからパソコンにはほとんど触っていない。

　なので忘れる。

　良く忘れるオレにとって覚えているのは、この前オンラインでお祓いをしてもらったから、オレは後厄４２歳ということ。

　それは分かる。

　ただ、オレの渾名なんだっけ。

　　　　　　　　　 （了）