信心なのか恋なのか

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 その人が私を真っ直ぐ見るときの顔は、高校で憧れた先生に似ていた。  私の文章を認めてくれた先生だった。  私のレポートを高く評価して、みんなの前で読み上げてくれた先生。  もちろん私は恋してた。片想いで。  話しながら思わず手が動いてしまうような楽しさと興奮は、中学で私の味方になってくれたあの先生を思い出した。  高校の進路に悩んで親と対立した時、親ではなくて、私の味方についてくれた先生。  学校の先生にしては珍しく、「独自性を大切にしなさい」と教えてくれた先生。  すごく憧れていた。  食事中にあなたの手が動き出して、お味噌汁のお椀がかたんと音を立てた時に気づいた。  話しながら手が動いてるなんて、あの時以来だと。  私だけじゃなく、あなたの手も動いていて。その手振りを見て思い出してしまった。  懐かしいなんて言ったらあなたに失礼かもしれない。  でもやっぱり、懐かしいと時々思った。  私が遠い過去に置いてきた熱中する思いを、あなたを見ているだけで思い出した。  母親なのに母親らしくなれず、娘をかわいいと思うことができない私が、いつの間にか娘に優しく話し、笑いかけるようになっていた。
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