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「タカオカさんは?」
「え?」
「タカオカさんは子どもの顔、見てみたくないですか?」
タカオカさんはもう一度海に目を向けた。
「みなみさんはきっと見せてくれるからね」
「え?」
「みなみさんができることを全部見てみたいっ
て思うよ」
タカオカさんの言葉を噛み砕いて考えようとした。目の前にタカオカさんがいる。それだけは確かに感じられた。
言葉を聞いているとやっぱり、少しふわふわしてくる。
頭が痺れて考えがまとまらない。もう勢いに任せて言ってしまおう。
「子どもは、産みます」
「うん」
「タカオカさん、よかったら、私と一緒に子どもを見てくれませんか」
思い切ってぶつけた。ちょっとまどろっこしい言い方になっちゃったけど、言いたいことは言った。
すぐに答えようとしない、タカオカさんの表情を伺ってみた。
上背は高く見えた。戸惑ってはいなかった。変わらない表情で海を眺めていた。
「そう思っていたよ。でも、それはできないと思う」
タカオカさんの言葉の響きが淡々と冷たく聞こえて、あぁ終わりだ、本当にこれで終わりなんだと思った。
スーッと血の気が引いた。頭が痺れるようにモヤモヤしていた霧が、ゆっくりと晴れていった。
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