しばらくこっちに住もうと思って

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 その日、昼過ぎに夫は家を訪れた。寒いけれどよく晴れた日だった。  いつも通りの片付いていない我が家に夫が帰宅した。それだけのような気がした。そう思いたかった。 「みなみは一緒に住みたくないんだよね? とりあえず、瑠璃は連れて行くから」 「うん」  寛さんは怒っているように見えなかった。離婚を考えているふうにも見えなかった。  とりあえず、は寛さんの口癖だ。いつも「とりあえず」と言って結論を出さず、適当に動き始める。そういうところは嫌いじゃなかった。  瑠璃は父親と手を繋いで家を出て行った。  ドアを出る前に瑠璃は振り返って私を見た。   「ママは?」 「ママは、行かない」 「……バイバイ」  瑠璃はいつもと同じように手を振った。 「バイバイね」  私も、いつもと同じように手を振って見送った。  いつも休日にやっていたみたいに、ママが家でお留守番をして、パパとお出かけするパターンだと思っているのだろう。  瑠璃とママは離れ離れになるんだよ、と伝えておくことはできなかった。  別れるのはどういうことなのか、意味を伝える自信がなかった。瑠璃にはまだ早いと思った。  そのうち、いつか、また会えるだろうと思う。その時に私のことを覚えていれば、懐かしく話せるかもしれない。
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