そして春

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 尼崎(あまがさき)のアパートは芦屋と西宮に比べると、安い価格帯でも築浅(ちくあさ)で広めだった。  本に洋服に食器と、私は荷物が結構多いからちょっとワンルームは厳しい。  結婚してもピアノを細々と続けたくて買った電子ピアノも、できれば捨てずに持っていきたい。  それに尼崎は駅前にあまがさきキューズモールができて(にぎ)わっているから、駅に近いと楽しそうだし暮らしやすそうだ。  私が書いた本の印税や有料noteの販売益は微々たるものだけど、ランサーズに登録してWebライターを始めて、足りなかったら派遣かアルバイトでコールセンターに勤めよう。noteの月額有料マガジンも書いてみようかな。    一人で子どもを産んで、やり直すんだ。正直ウキウキしているところもあった。  お腹の子どもを育てていくことに不安はある。産んで半年くらいは赤ちゃんの子育てで手一杯で、ほとんど働けないと思う。    でもやり直せるのは夢がある気がした。  瑠璃を育てていて、教育に対して熱が湧かなかった。自分でも驚くほど子どもの教育に興味が持てなかった。自分の親に授けられた教育に、未だに感謝できないからだろうか。それにしても湧かないものはどうしようもないと思った。  だからそんなにお金が(かせ)げなくてもいいや、と思った。  子育てにお金をかけなくてもいいや。良いものを食べれなくても、食べさせられなくても、いいところに住めなくてもいいや。  私はそんなに良いものを食べて育ってこなかったし、実家なんてほぼゴミ屋敷だったけど、まぁこれくらいには育つことができた。  良いところに暮らしてもうまくいかない時はいかないし、暮らしが悪くて傷ついて育っても何とかなる時は何とかなる。そんなものだ、と思った。  そして何よりも、私は自由になりたかったんだと思う。
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