オンラインサロンの異世界

1/5
前へ
/91ページ
次へ

オンラインサロンの異世界

 オンラインサロンの世界に私は迷い込んだ。  タカオカさんはオンラインサロンを始め、「面白いことをやる」名目で呼びかけ、「私を手伝うことが学びになります」と言ってメンバーを(つの)った。  私は既にタカオカさんの大ファンになっていたから、入会に迷いはなかった。  話したい一心だった。接点を持てば話す機会が生まれるだろうと思った。  一度ツイートのファンになると、どんどん好きになる。  ”女性を見下す心理が男性の心には存在する。古くから続く女性をモノのように扱う描写が影響していると思っている。私もそうだったから分かる。言い争いの際にふと口から出る言葉で分かる”  このツイートには目を奪われた。  言い争いの時に寛さんからひどい言葉を投げつけられるのが苦しかった私には沁みた。  その悩みは私もツイートしていたから、尚更(なおさら)惹きつけられた。  タカオカさんが気になって仕方ない。私が生きてきて放ったらかしてきた悩み、コンプレックスがふつふつと湧いてきて引き出される感じが心地よい。 “日本には戦略が足りない”と常に訴えかけるタカオカさんのツイートで思い出したのは、私が誇りに思えない地元のことだった。  私の地元は神奈川県横浜市の南部で、横浜というとちょっとかっこいい感じだけど、さびれてシャッター街になった姿は全く横浜のイメージではなかった。  電車で20分北上すると、随分(ずいぶん)違ってくる。しかしこの京和(けいわ)線の沿線は南部に長く続いていて、駅を降りると(たたず)む寂しい空気は子どもながらにこたえていた。  都会が好きだった。休日は電車に乗って洗練された都会に出かける。小学生の時からずっとそうだった。中学生になると時々電車を乗り継いで東京に出た。  都会は人の表情が全然違う。  地元の最寄り駅ではいつもボケたお年寄りが徘徊していて、時々話しかけられるのが怖くて逃げるように避けていた。  戦略が足りない……そうかもしれない。京和(けいわ)線の開発には戦略が足りなかったような気がする。私が抱えていたわだかまりに光が当てられたような気がした。 “日本の経済を発展させたい。それが人の幸せの土台になるから”  その考えにも痛いほど共感した。  経済が(とどこお)ったら、全員の人生が少しずつゆっくりと切り取られていく。就職氷河期、仕事が激減して絶望が蔓延(まんえん)したように。氷河期を勝ち抜いた人たちは、強い自己責任論を身につけたように。勝ち抜いた寛さんが厳しい性格で、私の甘えを許さないように。  ツイートを通して考えを好きになる。そうだよね、ほんとにそう、という共感の繰り返しに夢中になる。  オンラインサロンが始まったのは春の盛り。4月、始まりの季節に合わせて小さなコミュニティができた。  告知のツイートを読んですぐに、私はタカオカさんにDMで参加希望を伝えた。月額5,000円の会費に躊躇(ちゅうちょ)はなかった。
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

80人が本棚に入れています
本棚に追加