80人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ
理緒が生まれて
(今でも私は寛さんと夫婦なんだ)
出生届を書きながら、ふと思った。
理緒はタカオカさんの血をひいているけれど、戸籍では寛さんとの子どもになる。
何だか頭がくらくらする。
寛さんは今でも月に一度、生活費を振り込んでくれている。いつまでも当てにはできないと自分に言い聞かせつつも、やっぱりありがたかった。結婚を続けていることを、毎月知らされているような気がした。
生まれて間もない理緒に授乳して、吐き戻したら着替えさせて、おむつを替えて、時々ミルクをあげる生活。たまにスマホで写真や動画を撮っておく。
2時間置きくらいにお世話をして、合間に自分が寝たり適当に食べたり、洗濯乾燥機と食洗機をかけてネット通販で買い物する。
まとめて寝られない暮らしを続けているうちに、頭がボーッとしてくる。
世話に追われてだんだんイライラしてくる。哺乳瓶の消毒が面倒に感じる。一人でやるのは結構しんどい。分かってはいたけれど。
何となく、母に電話をかけた。心細くなっていたのかもしれない。
母と話すと喧嘩になるかもしれない。でも今となっては、一番気楽に話せる人のような気がした。今の生活にはあまり関係していない、でもよく知り合っている母。
母はすぐ電話に出てくれた。とりとめもなく今の状況を話す。誰かに話すのは初めてだった。誰にも話してはいけないと思ってきた。
「…………そんなことになってたなんて……あんた、それ一人でできるの?」
母が驚いて、悲しんでいるのが分かった。心配されている。
少し泣きそうになった。でも何とか堪えて止めた。
私はそんなに悲しくはないのだけど、初めて聞いたら悲しくなるだろう。私はこの状況にだんだん慣れたし、ゆっくり受け止めてきたんだと思った。
最初のコメントを投稿しよう!